偽王子と嘘少女
「藤堂くんに、橙里のメアド知っているか聞かれたとき。知らない、って答えたら、普通に信じて、そっか、ありがとう、って。かぐやと同じでさ、馬鹿っていうか、真面目っていうか…。それが、2人なりの優しさなんだろうね」
「…信じたいだけだよ」
「それが、優しすぎるんだってば。世の中には、私みたいに平気で嘘をつく人だって、いるんだよ。もう少し、注意しなきゃ」
悲しくも切ない笑みを、小さくこぼす希子。
「希子はそんな人じゃないよ。平気で嘘なんか、ついたりしない。何か事情があったんでしょ?」
「…ないよ、事情なんて。ただ橙里を、自分だけのものにしたかっただけだもの。彼女でもないのにさ、おかしいよね。フられてはっきりした…気がないって。私のこと、別に好きじゃないって」
好きじゃない、なんてことはない。
紫水くんは、希子に対して、きっと何らかの感情はある。
だって。
「…紫水くんは、希子と花火を見れないことを残念がってる」
「えっ?」
「行って…行かなきゃ、希子。紫水くんが待ってる」
ほら、早く。
そう言うように、ただ希子の体を押す。
「だって、私さっき橙里に……なんで!?」
「分かんないよ、そんなこと!」
堪える涙が、溢れ出しそうになるから、多いことは言わないよ。
だから早く…
「行って」