偽王子と嘘少女
「……藤堂くん」
小さく発した言葉は、誰の耳に届くこともなく消えゆく。
気付いてほしい、本当の私に。
でも、君だけには裏切られたくない。
怖がらずに、驚かずに、今まで通りに接してほしい。
ただそれだけが、全てを失ってでも手に入れたかったことなのかもしれない。
だから私は、君を信じて。
昨日のように、普段のように、彼のもとへ歩き出す。
「おはよう、藤堂くん…」
緊張で声が震える。
でも君は、見たこともないくらいの優しい表情で。
「うん…おはよう、柊さん」
柊"さん"…。
初めて呼んだその名前。
いつもと違うからか、妙に恥ずかしい。
だけど、同じくらいに安心する。
見た目が変わっても、口調が変わっても、藤堂くんは藤堂くんだから。