空にとけた夜の行方。
「なんか甘い匂いする。またなんか作ったの?」
「え、……わかる?」
思いがけない言葉に目を丸くする。彼は、小さく顎を引いた。
「わかる。で?俺の分は?」
当然のように、手を差し出される。今までと変わらない、やりとり。
それでも舜くんには、信じ難いと思ってしまうけれど、好きな人がいて。
ちくりと、心が痛む。痛くて目を逸らしてしまいたいけれど、でも私はそうしなかった。
きっと、私は舜くんに甘えすぎていたんだ。だからきっとこれは、きっかけ。
「……ないよ。舜くんのために作ったんじゃないもん」
そう言うと、今度目を丸くしたのは、舜くんの方で。
初めてだ。私がお菓子を作って、彼にあげなかったのなんて、多分。
ほんとにびっくりしたのか、舜くんの足が止まる。私が一歩、前に出た。
いつもと逆だ。いつも、私が後ろを歩いていたのに、今ばかりは、私が先を歩いている。