空にとけた夜の行方。


それなのに。


それ、なのに。



──俺、好きな人いるよ。



また、聞いた声が、追い出したい声が蘇る。不自然に静かな廊下、差し込む西日、色んな情感を伴って、私を回想の渦へと誘った。


それは、今日の放課後のこと。


私はたまたま、所属している料理部の最中に忘れ物を取るべく教室へと戻っていた。


終限からかなり時間は経っていて、廊下も教室も人はまばらだった。傾き始めた西日が窓から眩しく照らしつけて、私は思わず目を細めて自分の教室への道を急いだ。


一番奥の目的地にようやく辿りついて、私はほっと息をついた。それから、扉を開けようと手をかける。


「──突然呼び出してごめんね、片瀬くん」


……その時、教室の中から聞こえてきた声に、思わずその体勢のまま動きが止まった。


片瀬くん、と、聞こえた。この教室を使う人に、その苗字をもつ人は一人しか思い当たらない。まさか、と、手の裏に妙な汗が浮かぶ。

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