赤い花、散らさぬように



見えたお下げ髪の少女は、俺を見てにっこり笑っていた。



「今日も勉強、見てもらえませんか」



問いかけは控えめなようでいて、俺が断れないとわかっているからこの笑顔。


俺は小さく笑いながら、スーツのズボンのポケットに緩く両手を入れた。



「……いいですよ」

「ありがとうございます」



彼女は一度軽く頭を下げると、再び歩き始めた。


ぴんと背筋の伸びたその背中を眺めながら、俺は小さくため息をつく。



紅(べに)。円城寺紅。


俺の仕事場のお嬢様。



お世辞にも世間体がいいとは言えないこの職場で、俺は彼女といちばん歳が近いという理由から、何かと話し相手をさせられてきた。



紅は現在中学三年生で、ともすると受験生だ。彼女は今年に入って、度々俺に勉強を見て下さいと頼んでくるようになった。


どこで知ったのかーーたぶん他の奴らが言ったのだろうけどーー俺がここらで結構有名な進学校出身であると知ってからは、尚更だ。




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