赤い花、散らさぬように
「まあ、すぐにお前を止めなかった俺にも責任はあるけど……いいか、頼むから二度と他のチンピラにケンカ売るのはやめてくれ」
「はい……」
こくこくと頷く紅に、もう一度深くため息をついた。彼女の前にしゃがみこむ。
痛々しい頬の傷を見て、すぐに紅を止めなかった数分前の自分を呪った。
「……あーあ、顔に傷作って……何度も言うけど、お嬢は女の子なんだよ。傷なんかつけてほしくない。わざわざケンカなんかすんなよ」
傷とは反対の頬に、そっと手を添える。
その瞬間、紅の大きな瞳がじわりと潤んで、揺れた。そのまま、大粒の涙が溢れ始める。
驚いて、俺は言葉を失った。
「うっ、うわあああん」
大声で泣き始めて、今度は焦った。
五年前、まだガキでイライラしてばかりだった自分が、小学生の紅に当たり散らしては泣かせていた頃を思い出す。
「ごっ、ごめん、怒鳴りすぎた。怖かったよな、ほんとごめん」
ここ数年はこんな風に目の前で泣かれることがなかったので、戸惑った。