赤い花、散らさぬように
必死に謝っていると、紅はぶんぶんと首を振る。
そして、瞳に涙をいっぱいに溜めて、俺をまっすぐに見つめた。
熱量がたくさんにこもった、真剣な瞳で。
「も、もし私が普通の女の子になったら、紘之さんがもう、私に構ってくれなくなっちゃうんじゃないかって、怖くなったんです」
紅の言葉に、目を見開く。
……俺が?
「お父さんの娘じゃない私は、紘之さんにとってどうでもいい存在なんじゃないかって思って………だから、私はまだケンカが強い女の子なんだって思いたくて、それでっ……」
ほんとにごめんなさい、と紅は繰り返す。
俺は呆然としていた。
なんと言葉を返せばいいのかわからず、混乱する。
俺が紅に構わなくなるのが不安で、ケンカふっかけたって?
自分が、ヤクザの娘だということを示すために?
「なんでそんな……お嬢は、普通の女の子になりたいんでしょう?向こうの高校でたくさん友達つくるんでしょう?俺のことなんか気にしなくていいんですよ」
きっとこの子はこれから、高校で新しい友達をつくって、もっと相応しい好きな人に出会って、普通の幸せを手にする。
そんな可能性を、ちゃんと持っている。
いつまでも俺のことを気にしていたら、彼女の望む『普通』にはなれない。