赤い花、散らさぬように
紅は何度も首を横に振る。ちがう、と涙で震えた声で言う。
「遠くに行って、友達たくさんできても、紘之さんがいなかったら、なんの意味もないです。寂しいまんまです」
瞳からこぼれた透明の雫が、頬を伝う。傷ににじんだ血と混じって、赤く染まった。
「好きです。ずっとずっと前から、紘之さんが好きなんです」
こんなにも綺麗な告白を、俺は初めて知った。
言わせたくなかった。
だけどずっと、言ってほしかった。
言ってくれたら、この腕に抱きしめて、もう二度と離さないのに。
俺はこの薄汚れた手で、目の前の花を抱きしめるのが怖かった。
一枚、また一枚と、少しずつ彼女を散らしてしまいそうで、怖かった。
ほら、今も手がふるえてる。
喜びと怯えが混じりあって、情けないくらいふるえてる。