赤い花、散らさぬように
確かに高校はそこそこ頭の良いところには行ったけれど、所詮は高卒だ。教えられる範囲なんて限られている。
しかも中学で習ったことなど、ほとんど忘れかけていた。高校を卒業してからもう五年が経つのだから、当たり前だ。
彼女に教えるために、またイチからこっそり勉強し直すという、我ながららしくないこともした。
すべては、彼女だから。
本来、女のためになんて、てこでも動かない俺。
そんな男を今動かしているのは、八つも年下の女の子。
自分が信じられなくて、でもそういう自分が嫌いでもなくて。
俺は結構今の職場を気に入っているんだなあと、他の奴らと邸へ戻りながら思った。
*
「紘之さん。今日は数学を教えて欲しいです」
夕食までの間、部屋で待っていると、教科書類を抱えた紅が襖を開けた。
畳の上に置かれたちゃぶ台に頬杖をつきながら、紅を見上げる。