赤い花、散らさぬように
「数学ですか。昨日もそうでしたよね。苦手なんすね、お嬢」
「……うう。だって難しいんだもん……」
ムッとしながら、彼女は俺の向かいに腰を下ろした。
赤茶色のちゃぶ台の上に、数字やら記号やら図やらが書かれた教科書とノートが広げられる。
「えっとね、今日の授業でやったところなんだけど……ここと、ここ。あと、これもわからなかったの」
ノートのページをめくりながら、紅が指でトントンと三ヶ所叩く。
「ふーん……見せて」
小さな丸い机の上、顔を寄せあってノートを覗き込む。
すると、すぐそばの存在がひゅっと息を飲む。そのことに気づきながら、俺は知らないフリをする。
さらっと問題に目を通すと、俺は教科書を持って目的のページを探し始めた。
その間、紅は黙っている。一瞬、ちらりとそちらを見ると、彼女は赤い顔で下を向いていた。
そんな顔、すんな。
平気で男とふたりきりになるくせに。男ばっかの環境に慣れて安心しきって、いつも無防備なくせに。