赤い花、散らさぬように
「………お嬢さぁ、今のままでも充分成績いいでしょ。そんなに頑張らなくてもいいと思いますけど」
しばらくして、紅は練習問題に取りかかり始めた。
その間暇なので、邪魔になるとはわかりつつも話しかける。わざと邪魔をしている、とも言う。
「ダメです。今のままじゃ、志望校には届きません」
こちらを見もせずに紅は答える。予想通りの答えだったけれど、その頑なさにもどかしくなった。
「地元の進学校行けばいいじゃん」
「………それじゃダメなんですよ」
紅が言う『志望校』は、家から通学時間が一時間以内で済むような場所にはない。
遠くにある。
それこそ、毎日会うことができなくなるような場所にある。
「高校で、イチから始めるんです」
彼女のその言葉には、固い意志が込められていた。