赤い花、散らさぬように
返事はしなかった。
丸眼鏡にお下げなんて、今どき時代錯誤にも程がある黒髪を眺めながら、ため息をつきそうになった。
紅がヤクザの娘だということは、既に紅の学校の知るところだ。
そのせいで紅は周りから距離を置かれている。
友達もいないみたいで、いつも寂しそうにしている。忙しい組長の代わりに、何度か授業参観に行ったけど、彼女はいつもひとりだった。
紅は一般的なヤクザのイメージを払拭すべく、地味な格好をしている。性格も真面目だし、おとなしい。
おかげで彼女からヤクザはイメージできなくなったけれど、友達がいないところを見ると、この作戦は成功だったのか、いまいち判断しづらい。
そんな環境で今まで過ごしてきた紅は、高校ですべてをやり直そうと考えたらしかった。
自分を知る人がいない場所で、ただの女の子になるために。
もちろん、紅の志望校に本当に行くことになったら、彼女は家を出て一人暮らしすることになる。
そんなこと、娘を溺愛しているあの組長が許すわけがないのだけど、紅は本気だ。