赤い花、散らさぬように
「おい、今呼んだの誰だ?」
「俺だー!なあ、片栗粉ってどこにあんのか知らねえ?」
「はー?片栗粉?」
台所にいるらしき同僚が、片栗粉を探しているらしい。
俺は普段台所になんか立たないし、知らねーよ、と言おうとして、後ろから「あ、」という声がしてやめた。
「片栗粉は、昨日私が使って無くなったの。ごめんなさい、買ってくるの忘れてた」
そういえば昨日の夜、紅は台所で菓子作りをしていた。
「おい、昨日お嬢が使って無くなったってさー」
俺が大声で伝えると、台所から「わかったー」と返事が聞こえた。
「待って、私が行く」
すると、パタパタと早足で俺の横を通りすぎ、彼女が部屋を出ていく。台所へ向かうその背中を見て、なんだか俺から逃げているみたいだと思った。
いや、そうさせているのは俺か。
ひとつため息をついて、俺も部屋を出てあとを追った。