殺人鬼からのラブレター
煙で遮られる視界、家中を真っ赤に染め上げる炎。

熱風が眼球を襲うも、構やしない。

リビングが激しく燃えていることから、出火原因は恐らく、いつもこの時期になったら置かれているストーブだろう。

土足のまま熱されたと階段を駆け上がると、足元がガラガラッと崩れ落ちていった。


まるで神様が、お前に彼女は助けられないとでも言いたげに。

「ゲホッ、ごほっ……。くそっ! 」


息を切らして酸素を吸おうと肩を揺らせば、熱い空気が喉を焼く。


息苦しい、冷たい木枯らしの吹いている外に、逃げ出してしまいたい。


(くそ、進めよ、足。諦めるな、ここまで来たら、行くしかねぇだろうがっ)


身体が焼かれ、皮膚の爛れていく痛みに耐えながら、アイの部屋に飛び込む。



「アイ! 」

煙に塗れてカーペットに倒れ込む彼女を見つけるも、返事は無く。


青白い顔をしたまま、呼吸を止めていた。


これが童話の世界ならば、ここで目覚めてハッピーエンドなのにな。

「アイ、」


”幼馴染みの女の子を助けたい”という満たされない渇望は、いつしか複雑な恋心へと色を変えていて……。

「また、助けれなかった……」


息絶えた身体を抱き寄せるたびに胸が苦しくなって、声が出ない。


好きだ、そんな言葉さえも。


君には、届かない。


徐々に霞んでゆく景色の中、俺はアイの身体を強く抱き締める。

「次は、次は……必ず、助けてみせる……っ」



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