彼女が指輪をはずすとき
「…ごめんなさい。私の住んでいるマンションもうすぐだから、着くまでの間だけ…腕掴んでていい?」

酔いがまわっているようで、彼女は普段のような堂々たる態度ではなく、守りたくなるようなか弱い女性のように感じる。
肩だってこんなにも華奢で、少し力を入れてしまえば壊れそうなほどだ。

「もちろんです」

彼女は俺の右腕をそっと握り、俺たちは再び歩き出す。

彼女の爪には薄いピンク色のマニキュアが塗られている。
控えめだが、それが彼女の品の良さを際立たせているように感じた。

こんなにも彼女に胸をときめかせている俺がいる。
彼女のマンションまで、心臓がもつかわからないほどに。

ああ、ずっとこのままで居てほしい。
このまま永遠に時間が止まればいいのに。

そんな叶いもしない願いは、彼女の左手薬指にはめられているピンクゴールドの指輪を見て打ち砕かれる。

そうだ。
彼女には決まった相手が居る。
俺は何を勘違いしているのだろう。

俺の腕を握る彼女の行動に、何の意味もない。
彼女が俺に向ける笑顔は、彼女の彼氏に向ける笑顔とは違うんだ。
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