彼女が指輪をはずすとき
それからはまた、遠くから彼を見つめる日々が続いた。
でも前とは違って気軽に話をすることができなくて、話したくても話しかけられないもどかしさを感じていた。

彼が女の子と話していると、心の中にもやもやした黒い感情が渦巻く。
なんであのとき言わなかったんだろうと、後悔ばかりの日々。

次ふたりきりになったとき、必ず言おう。
そう思うのにふたりきりになる機会がない。

もしかして、先輩がわざとならないようにしてるの?
そんな確証もないのに、深く考えては沈んでいた。

そしてぎこちない日々が続き、私は2年生になっていた。

4月の上旬。
その日は雨だった。
天気予報では晴れだと言っていたはずなのに、講義が終わり校舎を出たらどしゃ降りの雨が降っていた。

『うそ…今日ずっと晴れだって言ってたのに』

傘は当然もってきていない。
駅まで走ってもいいけれど、この降り具合では服も鞄もびしょびしょのまま電車にのらなくてはならない。
そんなの嫌だ。

友達ももう帰ってるはずだし、入れてもらうという手段もない。
購買で傘を買って帰るのももったいない。

通り雨なことを信じて、しばらく雨宿りして帰るしかないか。
深くため息をついて、図書館へ向かおうと後ろを振り向くと、帰ろうとしている先輩の姿が少し先にあった。

『せん…ぱい』

私がそう呟くと彼は私に気づいたようで、こちらに近づいてきた。
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