彼女が指輪をはずすとき
『…ひかり、いま帰り?』

彼は白いシャツにジーンズのパンツ、黒のスニーカーを履いて大きな黒のリュックサックを背負っていた。

『はい。でも私傘を持ってきていないので、図書館で時間を潰そうと思って』

会話にぎこちない間があき、私たちの間に沈黙が流れた。
どうしようこの空気。
そう思っていると、先に口を開いたのは彼だった。

『俺も傘持ってなくて、時間潰したいから雨止むまで一緒に話さない?』

彼がそんなことを言うなんて思わなかった。
私は驚きつつも、首を縦に振った。

『じゃあ廊下のベンチに座ろうか』

私はベンチへ向かう彼の背中を追いかけて歩き出す。
彼の背中を見て、彼と初めて出会ったときのことを思い出していた。

確かあのときも同じ格好をしていたっけ。
勧誘のビラを持って、校門を出ようとする私に声をかけてくれたんだっけ。

出会った日のことは、昨日のことのように思い出せる。

かけてくれた言葉。
声のトーン。
はにかむ笑顔。
そして、彼に一目惚れをした瞬間。

あのときの感情が溢れ出す。
私は…わたしは…

『先輩』

背中を向ける彼のシャツの裾を右手で掴む。

『…ん?どうし…』

『先輩のことが好きです』

不思議そうな顔をする彼が言い終わる前に、私は彼へ気持ちをぶつけていた。
溢れ出して止まらない彼への愛しい想いを、告げる以外に選択肢なんてなかった。
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