彼女が指輪をはずすとき
お父さんは、朝日と朝日のお母さん…つまり奥さんの二人を亡くしている。
息子を事故で亡くし、奥さんは息子が亡くなったショックで弱ってついには亡くしてしまった。

”君には、妻の二の舞になってほしくないんだ”

今なら、その言葉の重さがきちんと理解できる。
お父さんが一番大切な家族を二人も亡くし、どれだけ苦しんだかを。

”君には朝日を忘れて、きちんと前を向いてほしいんだ”

私は…朝日以外の人を好きになってもいいのかな?
前を向いて歩いていってもいいのかな?

「愛する誰かを失ってついた傷は、誰かを愛して癒すしかない。だから彼以外の人を好きになってもいいと俺は思う。彼を忘れるわけじゃない。きっと次に愛する人を見つけたら彼は”思い出”になって、お前の中で生きつづける」

私の傷を癒して、受け止めてくれる相手。
それは…

「誰かの顔、浮かんだか」

地面に座り込んでいた私は、手をついて立ち上がった。

「…ありがとうございます」

私は亘さんに深くお辞儀をしてから、屋上をあとにした。
私は”彼”に言わなければならないことがある。
”彼”が今どこにいるかわからないが、それでも絶対見つけてやる。

私はあてもなく階段をかけ下りていった。
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