彼女が指輪をはずすとき
「何か食べたいものはある?」

彼女は俺に問いかける。

時々軽く当たる肩に、俺の胸は高鳴る。
偶然だろうか、それとも故意なのか。
どちらにしろ彼女は俺をときめかせる天才だ。

「藤堂さんが食べたいもので良いですよ」

「お詫びなんだから、三笠くんの食べたいものじゃなきゃ意味ないわ」

「俺だって悪かったんですし」

「そんなことないわ。遠慮しないでいいのよ」

そんなことを言っても、上司で女性である彼女に遠慮なしに好きなものは言いづらい。
こういう場合、何と言えば良いのだろう。

「…じゃあ藤堂さんが一番好きな店に連れていってください」

俺は悩んだ末答える。
これがベストな回答ではないだろうか。

「そんなので良いの?」

「藤堂さんのこと、もっと知りたいですし」

そう言って、しばらく経ってから気付く。
さらっと言った言葉だったけれど、これって大胆なこと言ってる?

俺は自分の言葉を思い出して、恥ずかしくて顔が赤くなっていくのがわかった。

そんな俺に彼女は何も言ってこない。
もしかして引かれたんじゃないか?

おそるおそる彼女のほうを見る。
すると彼女も俺と同じように顔を真っ赤にして、下を向いていた。

「…藤堂さん?」

俺が呼びかけると彼女はビクッと肩を震わせ、目が合うとすぐにまた下を向いた。

「照れてます?」

俺は少し意地悪な口調で問いかける。
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