彼女が指輪をはずすとき
「照れてなんかないわよ」

彼女は少しつんとした口調で答える。

「拗ねてます?」

「拗ねてないわ」

彼女が照れて顔を赤く染めたり、意地悪をした俺に拗ねたりだなんて新鮮で、可愛くてたまらない。
普段の笑顔も素敵だけれど、今の彼女のほうが素が出ていて好きだ。
そんな彼女に胸をときめかせ、俺はつい顔がにやけそうになる。

「ごめんなさい。藤堂さんが可愛くてつい」

「褒めたってなにも出ないわよ」

「そんなつもりじゃないですよ」

彼女は意外と照れ屋なんだな。
彼女の素顔がまた1つ知れた。



「ここよ」

藤堂さんは立ち止まり、目の前の店を指さす。

「イタリア料理なんだけど、食べられる?」

「もちろん」

ここが藤堂さんが好きな店か。

高そうな店だったらどうしようと思っていたが、ショーウィンドウの中に並んでいる料理の値段を見ていたら、どうやらそうではないみたいだ。

「じゃあ入るわね」

藤堂さんは店のドアを空け、店に足を踏み入れる。
俺は後から続いて店に入った。
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