彼女が指輪をはずすとき
私は彼が飲むのを見届けてから、グラスに口をつける。
口の中は白ワインの爽やかな風味と香りで満たされていく。
白ワインの魅力はそういうところだなと改めて感じさせられる。

「…」

お互いになにも話さず、沈黙が流れる。

どうやって切り出そうか。
"三笠くんが好きです"って唐突に言ったら引かれるよね。

だいたい過去を話して泣きじゃくった挙げ句、泣き止むまで抱き締めてもらったりと迷惑かけといて、いきなりあなたが好きですって何?
あのとき朝日を"忘れられない"だなんて言ってたくせに、こいつ切り替え早いなとか思われたらどうしよう。
やっぱり今日誘わなきゃ良かったかなあ…。

「藤堂さんって」

そんなこんな考えている間に、私より先にこの空気を破ったのは彼だった。

「亘さんのこと、どう思っていますか?」

意外な話題に私は驚いて、口に含んだワインを吹き出しそうになる。
何故いきなり亘さん?
もしかして、さっきの屋上での話聞かれてたんじゃ?
考えれば考えるほど、心臓の鼓動は増していく。

「何で、亘さん?」

おそるおそる私は彼に問いかける。

「…亘さんって、格好いいなって思って」

「そうかしら?どうしたのいきなり」

なんだ…聞かれていたわけじゃなさそうね。

「亘さんが煙草を吸う姿って様になるなって思ったんです。男の俺が格好いいって思うんだから、女性は当然格好いいって思うだろうなって。だから、藤堂さんはどう思っているのか聞いてみたくて」

「そうね…亘さんは確かにもてるし、女性社員に人気なのは確かよ。でも私はあんまりかな」

「どうしてですか?」
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