彼女が指輪をはずすとき
「あの人って人のことをよく見ているし、何度かアドバイスをもらったこともあるわ。でもアドバイスをして勇気づけてくれている反面、どこか突き放されている感じがするの」

あのときだってそうだった。
朝日が亡くなって屋上で私が泣き崩れたとき、彼はこう言った。

"彼を追いかけたいって思うなら追いかければ良い"

亘さんはずっとこちらを向かず、フェンスの向こう側の青空を見つめていた。
その後ろ姿はどこか遠く、手を伸ばしても届かないような気がした。

彼は彼なりに私が後を追ってしまわないように、引き止めてくれたのかもしれない。

でも本当は私の隣で話を聞きながら"辛かったな"とか"思いっきり泣け"と言ってほしかった。
ううん。
言葉なんて要らないから、私の話を聞いて静かに頷いてくれるだけでも良かったんだ。

「…彼氏さんが亡くなったときも、亘さんにアドバイスをもらったんですか?」

え?

私は顔を上げて彼を見る。
もしかして本当に、さっきの屋上での話聞かれてた?

「昼休みに食堂を出ていった藤堂さんを探していたときに、屋上で煙草を吸う亘さんに聞かれたんです。藤堂さんのことを好きかどうかって」

あの人、三笠くんに何てことを聞いているの。
亘さんはいつも直球で、思ったことをそのまま口に出す。
彼のそういうところは欠点だと思う。

三笠くんも屋上に行って亘さんと話したということは、私が屋上を去ったあとに屋上へ来たということね。

「その時に"あいつはお前が思っているほど強くないし、お前の印象とは真逆かもしれないけれど、それでも好きでいれるか?"って聞かれました」

亘さんらしい直球な質問ね。
本当、あの人は…
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