彼女が指輪をはずすとき
「…俺、藤堂さんが好きです」

彼の言葉に思わず手が止まる。

「彼氏さんのことが忘れられないのは承知の上です。それでも、この気持ちを伝えたかったんです」

三笠くん…

彼の肩が震えていることに気づく。
相当勇気を出して言ってくれたんだ。

「いつ…から?」

「…いつからなんでしょう。初めはどちらかというと"憧れ"でした。いつも笑顔で綺麗で、仕事もできる藤堂さんが素敵だと思っていました」

彼は切なげな笑顔で笑う。

「でも飲み会のあと藤堂さんの過去を聞いたとき、こんなにも辛い過去を抱えていたんだと驚きました。そんなことを微塵も感じさせない笑顔で笑っていたのに。ずっと強がっていたんだと」

三笠くんが抱き締めてくれたあの日のことを思い出す。
誰かの前で安心して泣けたのは久しぶりのことで、あの日のことは鮮明に覚えている。

「藤堂さんの弱い部分を垣間見たときに幻滅するのではなく、むしろ愛しく感じました」

ああ…。
この人なら、大丈夫かもしれない。

彼ならきっと私の何もかもを受け止めて、"辛かったね"と言って抱き締めてくれるだろう。

私この人と、前に進みたい。

「三笠くん」

私がそう呼ぶと、彼の肩がぶるっと震えた。

「はい」
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