クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
それは、再就職して、二週間経った頃だった。

私は任されたファイルを抱え、資料管理室に向かっていた。途中、廊下の角を曲がったとたん、向こうからやって来た誰かと肩がぶつかってしまった。

「すみませんっ」と、相手に頭を下げて、顔を上げた時――

「!!」

固まってしまった。……それは、彰斗だったからだ。

彰斗も驚いたように私を見ていた。

「え、何でここに……?」と、お互い同時に尋ねていた。

彰斗は確か、食品メーカーで働いていたはず。

「……俺、去年の秋に、ここに転職したんだ」

彰斗は、少し落ち着かない様子で、私の目をあまり見ずに答えた。

去年の秋というと、私と別れる少し前だ。全然知らなかった。……だって一言も教えてくれなかったし。

何で言ってくれなかったの?と聞こうとして、やめた。これから別れようとしてる彼女に、別に教える必要もなかった、ってことね……。

あれから時間が経ったけど、自分がそんな程度の女だと再認識させられたみたいで、ショックだな……。

「そう……だったんだ……」と私は言って、今度は自分の経緯を説明した。

「そうか……じゃあ、お互い頑張ろうな」

彰斗はそれだけ言うと、私の前から立ち去った。

というか、やっぱり、転職したことは教えてほしかった。だって分かってたら、この会社、受けてないし。これから気まずいことこの上ない。

でも、今また一から就活する体力も気力も残ってないし……。

それに、さっき彰斗が下げていた社員証、営業部、って書いてたっけ。

私が配属されたのは、業務部だ。この会社の自社ビルは結構広くて、営業部と業務部は離れた階に入っている。

社員数もかなり多いし、めったに会わないんじゃないかなと思う。そう願いたい。現に、この二週間、出くわさなかったわけだし。


正直、まだ完全に吹っ切れたわけじゃないけど、もう過去のことだ。時間が解決するのを待つしかない。とりあえず、クビにならないように、この職場で一生懸命やろう。

そう思い直して、頑張ることにした。

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