クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
「……悪い。香奈の困った顔も可愛かったから」
佐伯さんを移動させて私の横に座った小野原さんはそうささやくと、ちゃんと皆に説明してくれた。
朱音さんは、納得したのか、それからは黙っている。
佐伯さんには、「なんだ、つまらないな」と、なぜかガッカリされたけど。
てか、そんなこと、説明されてる私も恥ずかしいんですけど……。
「あの……私、そろそろ帰りますね」
時計を見て、私は立ち上がった。小野原さんも来てくれたし、朱音さんも安心だろう。
「駅まで送る」
小野原さんも同時に席を立ったので、
「すぐそこなんで、大丈夫です」と、言ったけど、
「いいから」
小野原さんに手を引かれ、席から引っ張り出された。そして、
「将吾、亮。朱音をしばらく頼む」
そう言い残すと、私の手を取ったまま小野原さんは出口へと向かい出した。
「あ、それじゃ失礼します……朱音さん、お大事に」
私は振り返りながら、皆に頭を下げた。
外に出ると、さらに風が冷たくなっていた。
だからなのか、ぎゅっと握られた手から、小野原さんの体温が伝わってきて、温かくてホッとする反面、何だかドキドキする。
駅は本当にすぐそこだった。視界に改札が映り、少し寂しい気持ちになる。
「……小野原さん、今日、お友達と約束されてたんですね? それなのに、私のせいで寝不足で……」
「香奈が帰った後に、急に連絡が来たんだ。だから、香奈が気にすることじゃない」
「そうなんですか……あ、高橋さんが、小野原さんのこと、課長なんてすごい、って、言ってましたよ」
「アイツ、そんなこと言ってたのか……。将吾は親父さんの跡を継いで、工務店の社長として頑張ってる。亮は夢を叶えるために下積みを経て、今は都心で三店舗あるレストランのオーナーだ。ああ見えて、仕事には厳しいんだ。俺からしたら、アイツらの方が、ずっとすごい」
友人らを誉める小野原さんは、とても穏やかな笑みを浮かべていた。