クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
その顔に見とれていると、バチっと目が合い、思わず視線をそらしてしまった。

やがて、改札に着いた。

「今日はここまでしか送れなくて、ごめんな。朱音の様子、見ないといけないから」

「いえ、いいんです、そんな……。大切な妹さんなんですし、当然ですよ。朱音さん、早く元気になるといいですね」

「ああ。ありがとう」

「……」

……どうしよう、大事なこと伝えたいのに……言葉が出ない……。

……何か、言わなきゃ……。



「……小野原さん……」

握った手に力が入る。

「ん?」

「……あの……来週の土曜日は、私、友達の結婚式があって……」

「?」

「いえ、だから、その……はっきりと次の約束は……出来ないんですけど……」

何言ってるんだ、私。そうじゃないでしょ。




「……また会いたい……です……」




それだけ言うので精一杯なんて……情けない。



小野原さんの反応を待っていると、やがて、小さなため息が聞こえてきた。

呆れられたのかと、不安になって、手を離そうとしたけど、今度は逆に強く握り返される。

「香奈」

「……はい」

「香奈からそんなこと言ってくれるなんてな」

「……え」

「今、駅前じゃなかったら、この手を引いて抱きしめてるところだ」

「ええっ!?」

慌てて手を振りほどこうとしたけど、離してくれない。

「ダメですっ、こんな所じゃ」

「じゃあ、ここじゃなきゃいいんだな?」

「……えっと……」

「次、どこでやるか分からないから、そのつもりでいて」

そう言って、小野原さんは笑う。


……やっぱり、結局この人のペースに巻き込まれることになるのね……。


だけど、嫌じゃない。



……だって、胸を甘く締め付けるこの感覚さえも、今は愛しいから……。






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