クール上司の甘すぎ捕獲宣言!


「もういいわ! さよならっ!」

ヒステリックな女性の声に、ハッと、一気に私は追憶の世界から現実に引き戻された。

……何か今、走馬灯みたいなものが見えてた……ん?

石段を見下ろすと、その女性がきびすを返し、男性に背を向けて立ち去っていくのが、見えた。

ああ……フラれた……。

そう思った時。

私の左足は、石段ではなく、宙に踏み出していた。

ヤバイ、踏み外した……!

とっさに状況を理解したその瞬間から、ぐらり、と体が前のめりになるのを感じた。

しまった……あの二人に気を取られてた……!

一番下まで、まだ五段ほどある。落ちても死ぬことはないだろうけど、絶対痛いに決まってる!

私はぎゅっと目を瞑った。


ドスンッ……

衝撃はあったが、思ったほど痛くない。

アレ……?地面って、こんなだったっけ……?何か、しなやかな感じ……。

恐る恐る目を開けて――

「……!」

私は自分の状況にビックリした。

その男性を巻き込むように、重なり合って、地面の上に倒れていたのだ。

まるで自分が押し倒したような格好になっていて、私は慌てて、その上から飛び退いた。

「ご、ごご、ごめんなさい!!」

わわっ、どうしよう!?

「ケガ、無いですか!?」

「……大丈夫」

その人は、ゆっくりと上体を起こした。そして、目が合った。

その瞬間、ドキリ、とした。

……何、このイケメン……。

黒髪がサラサラと風になびいている。はっきりした二重の瞳、スッと通った鼻筋に、形の良い薄い唇。

こんな人、初めて見た。




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