クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
って、見とれてる場合じゃない!

頭とか打ってない!?

「ホントに大丈夫ですか!?立てます!?」

「……」

すると、その人は無言で立ち上がった。

あ、大丈夫みたい……。ひとまず、良かった……。

ホッと胸をなでおろすと、目の前に手が差し出された。

「……そちらこそ、大丈夫?」

「え、は、はい……」

うう、優しい。

さっきフラれてツラいはずなのに、私がぶつかっちゃって、心身共にダメージ受けてもなお、こんな私を気遣ってくるるなんて……。

私は手を伸ばしかけて、止めた。その人の手のひらが、少し擦りむいたように赤くなってるのに気付いたからだ。

「手! 血が出てます!」

きっと、私とぶつかった衝撃で倒れた時、手を地面に擦り付けちゃったんだ!

私の声に、その人も初めて自分のケガに気付いたらしい。

私は慌てて自力で立つと、バッグから藍色のハンカチを出した。

「これ、使って下さい!」

「……でも」

「いいんです!あ、まだ一度も使ってないんで、大丈夫です」

この前、デパートで見付けたお気に入りの1枚だったんだけど、この際、仕方ない。ここで、お別れよ。

その時、向こうのカーブから、一台のバスがこちらやって来るのが見えた。

どうしよう、この人、ここに置いていくのは……。彼女、戻ってきてくれないかな……。
私は、彼女が去った方向を見たが、もうすでに姿は無かった。

すると、私の様子から察したのか、その男の人が言った。

「バス、来てる」

「え?」

「走らないと間に合わないよ」

神社前、というバス停名だが、実際は少し神社から離れている。

「だけど……」

「こんなのケガの内に入らない。だいたい、大騒ぎしすぎ」

「あ、すみません……」

「俺は近くに車停めてるから」

あ、もしかしたら、車の所に彼女が戻ってるかもしれない。

それに、失恋現場を目撃した私がいつまでも側にいたら、この人もイヤだよね……。

「ちゃんと消毒してくださいね。それから、本当にすみませんでした」

私は頭を下げると、バス停へと向きを変え、走り出した。

それにしても、カッコいい人だったな……。
あんな人でも恋、って上手くいかないのかな……?まあ、人は外見が全てではないけど。

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