クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
「生意気だし、いつも突っかかってくるし、可愛いげもないけど、それでも、いなくなってほしいなんて、一度も思ったことないわよ!」

「……」

「それに、カッコつけたいだけで、誰がこの時期の寒い川に入るってのよ!あなたを助けたいからに決まってるでしょ!」

急に声を上げた私を、朱音さんは驚いたように見ている。

「それに、あなたがいなくなってほしい、なんて思ってる人、誰ひとりもいない。小野原さんはあなたを必死に探してるし、高橋さんも前に、あなたを妹みたいだ、って言ってた。叔父さん夫婦もあなたを可愛がってくれてるんでしょ?」

「……」

朱音さんは、何も言わずうつむいた。

「あなたがもし、ここで命を落としたら、小野原さんは絶対一生後悔する。あの時、何で話を聞き出してあげられなかったんだろう、って後悔し続ける。……私にも妹と弟がいるから。……私はあの人のそんな姿、見たくないの」

朱音さんが静かになったのを見て、私も冷静さを取り戻すように、フーッと息を吐いた。

「……残念だけど、私はあなたの代わりにはなれない。ずっと生まれた時から一緒のあなたと、最近出会った私とじゃ、絆の深さが違い過ぎるわ。……小野原さんにとっても、あなたはたった一人の家族だから」

「……」

朱音さんはく、上半身を地面に突っ伏した。

肩が、背中が、小刻みに震えているのが分かる。

私は、その背中に、そっと手を置いた。



その時。


「朱音ー! 香奈ー!」


小野原さんの声が、遠くから聞こえてきた。

私は、ハッとして、その辺に投げ捨ててるように放ったバッグを拾い上げ、スマホを出した。

「もしもし、小野原さん!」

『香奈!どこだ!?』

「スマホが光ってる所です!」

私はライト機能を付けると、そのまま腕を真上にあげた。

……早く、気付いて……!!

寒くて、全身が固まりそう……。





「朱音!香奈!」

やがて、近くで小野原さんの声が聞こえた。

その方を向くと、土手から階段を駆け下りてくる人影が見える。

……良かった……

安心感から腕がだらりと下がり、私は意識を手離した……。






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