クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
帰ってきたハンカチ
それから、一週間後の金曜日。
今の会社は、主に電気機器や機械部品を扱う卸売商社だ。
私の所属している業務部の仕事は、パソコンにデータを打ち込んだり、固定の取引先への商品の見積りや発送の手続きをしたり、他の部署が必要としている資料を探し出して仕事が円滑に運ぶ手伝いをするなど、裏方的な役割も担っている。
「永沢さんが来てくれて、助かるわ。覚えも早いし、手際もいいし、それにうちの部署、地味でしょ? 女子も少なくて寂しかったのよね。だから嬉しい」
そう声を掛けてくれたのは、私の指導に当たってくれている笹倉(ささくら)さん。私より九歳上で、一児の母らしい。とても話しやすくて、気さくな人だ。
「いえ、前の職場でも同じようなことしてましたから。規模は違うけど、機械部品も扱ってたので、型番とかが頭に入りやすいんです」
笹倉さんは地味だと言ったけど、目立ったり、人前に立ったりすることが苦手な私には、こういう仕事の方が向いている。それに、誰かの役に立っていると思えば、自然と作業に精が出る。
その日の昼休み、私は笹倉さんに連れられて、会社近くの定食屋に来ていた。
この会社は社員食堂制度を取っていないので、社員はビル最上階の休憩所で、各自持参したお弁当等を食べるか、外に出て食事をすることになっている。
私達が席に着いて談笑していると、スーツ姿の男性が四人ほど、入ってきた。
「あ、あれ、うちの会社の人よ。営業部の上の人達だ。小野原課長もいる」
笹倉さんが小声で教えてくれた方向に、同じく目をやると、少し離れた席に、ひときわ目立つ、眼鏡をかけた若い男性がいた。
小野原圭一、営業部課長。入社して、半年の間に、数回廊下ですれ違ったことがある。
いつも冷静沈着、仕事は完璧で上司の信頼は分厚く、部下からも慕われている、って笹倉さんが言っていた。
おまけに、背が高くて、顔も良くて、スーツ姿もカッコ良くて、まさに非の打ち所のない人物。三十一歳、独身。笹倉さん曰く、当然、社内一のモテ男なんだけど、浮いた話はなく、勇者の如く果敢にも攻めていった女子社員はことごとく玉砕しているらしい。
通称『完璧王子』。