クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
「じゃあ、そろそろ帰るよ」

「あ、はい……」

え、もう……?と言いたくなるのを我慢して、うなずいた。私の様子を見に来てくれただけだし、分かってはいるけど……やっぱり帰られるのは寂しいな……。

「そんな顔、するな」

小野原さんの声が優しくて、余計に寂しさが増す。

「そんな顔されたら……」

小野原さんも寂しいと思ってくれてるのかな……。







「襲いたくなる」









「な、ななな何言ってるんですか……!」

……違うこと、考えてた、この人!

「初っぱなからあんな姿見せられて、おまけに熱の影響で、そんな潤んだ目でずっと見られたら、そうなる」

そうなる、ってそんな、当たり前のことのようにサラッと言わないでー!

「今、この距離だって結構ヤバいんだ」

「……ヤバい、って……」

私は思わず後ずさった。でも、すぐに玄関の壁
が背中に当たった。

「そんなに恥ずかしがることないだろう。この前はあんなに素直だったのに」

私の脳裏に、土曜日の夜の、小野原さんのマンションでの光景が浮かぶ。

その瞬間、顔から火が出そうになった。

「……あれは、その、素直というか……」

その時の流れというか……いや、自分の気持ちに嘘はないんだけど、心の勢いというものもあるので……

って、ただでさえ回らない頭なのに、考えただけで段々クラクラしてくた……!

すると、小野原さんは、私の前髪をそっとかきあげると、額に軽くキスをした。

「今日はこれで我慢しとくよ。焦ってる香奈もかわいいし、見てるのも楽しいけど、あんまり言うと余計に熱が上がりそうだから」

……意地悪だ……。

「ちゃんと戸締まりするんだぞ。元気になったら、またどこかに行こう」

小野原さんはそう言うと、玄関を後にした。


私は紙袋を抱えたまま、しばらくそこに立っていた。

触れられた額が、熱い。


余計に熱が上がりそうだから、って……もう遅いですよ……。


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