クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
「江田、そこで何してる」

小野原さんの、氷のような冷たさを含んだ口調に、彰斗は慌てて私の肩から手を離した。

そして、無言で下を向いたまま、資料室を出ていった。

今、資料室には私と小野原さんの二人だけ。

「……」

今の話、聞かれてたら……私の元カレが彰斗だって、分かってしまったはず……。

何で黙ってたんだ、って、怒られるかな……。

小野原さんがこちらに近付いてくる。

私は、何だか気まずくなって、立ち尽くしたまま、ぎゅっと目を閉じた。




でも--

小野原さんは何も言わず、私の横を通り過ぎただけだった。




何か言われると思っていた私は、思わず振り返った。

「あ、あの……」

「君も用事が済んだのなら戻りなさい」

突き放すような冷たい空気が辺りに張りつめる。



……怒ってる……?

私が彰斗のことを黙ってたから……?

それとも、元カレと二人でいたから……?



……違う……。




『小野原さんと付き合ったら、彰斗を見返せると思った!』

……私が……

私が、あんなこと言ったからだ……!



「あ、あのっ……」

違うと言いたいのに、小野原さんのまとう空気に圧倒されて、言葉が出ない。

追いかけたいのに、足も前に出せない。

その間にも、小野原さんは奥へと進んでいく。



遠のいていく小野原さんの背中が、

『お前はそんな女だったのか』

そう言っているような気がした。




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