クール上司の甘すぎ捕獲宣言!


翌日、金曜日の昼休み。

早めに食事から戻った私は、会社の非常階段に座り、青空を泳ぐ白い雲を、ぼんやりと眺めていた。

でも、考えるのは昨日の小野原さんのことばかり。

あれから、社内で会うことはなかった。今日も午前中が過ぎたけど、姿を見ていない。

昨日、帰宅してから電話をかけようと何度もスマホを手に取ったけど、結局、勇気がなく何も出来なかった。

そのせいで、昨夜は一睡も出来なかった……。

……何も言ってくれないのって、こんなにツラいことだったんだ……。

あくびの代わりに、口から出るのは深いため息ばかり--。



その時、私の頬に温かくて硬い何かが触れた。

「ひゃっ」

びっくりして振り返ると、笹倉さんがペットボトルを手に立っていた。

「あらら、昨日あんなに幸せそうだったのに、今日はどうしちゃったの?」

「……」

「お昼ご飯もあんまり食べてなかったみたいだし。森さんと鈴木さんも心配してたわよ」

「……すみません……」

「大丈夫?」

笹倉さんは、「はい、私のおごり」と、ホットレモンティーのペットボトルを手渡してくれた。

「ありがとうございます……」

手のひらから伝わるじんわりとした温もりが、沈んでいた心にゆっくりと広がる。

「もうすぐ、午後の業務始まるわよ」

……ああ、もうそんな時間だったんだ……。

「あ、それから」

と、社内に戻りかけてた笹倉さんは、くるっと振り向いた。

「小野原課長、昨日の午後から今日まで出張だって。直帰みたいだから、今日の帰りは遅いんじゃないかしら」

そう言うと、笹倉さんはその場から立ち去った。

……笹倉さん、鋭いな……。私と小野原さんに何かあった、って気付いてたんだ……。

出張……だから、昨日あれから姿が見えなかったのか……。


その時、私のスマホが鳴った。



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