クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
静かに席に近付いて、黙って彰斗の前に立つ。

私を見上げた彰斗は、安堵したような、でもやっぱり気まずそうな、複雑な表情を浮かべていた。

「私が来なかったら、どうするつもりだったの?」

「……香奈なら来ると思った」

「……」

何よ、分かったような口、聞いて。

私は顔を背けたまま、席に着いた。

店員が注文を取りに来た。すぐに帰るつもりだったから、何もいらない、と言おうかと思ったけど、それもお店に失礼な気がして、紅茶を頼んだ。

「昨日はひっぱたいて悪かったわ。それを謝りに来ただけ」

「……いや、香奈が怒って当然だよ。俺は香奈に謝らないといけないことがたくさんある」

彰斗は視線を落とした。

「昨日はひどいことを言って本当にごめん。許してくれないのは分かってるけど、どうしても会って謝りたかった。でも……香奈とやり直したいと思ったのは本当なんだ」

「……嘘!私のこと、最初から本気じゃなかったくせに」

「嘘じゃない。って言っても信じてもらえないよな」

「……もう何がホントで何が嘘か分からない」

今さらどうでもいいことだけど。

「……俺、前に付き合ってた彼女と別れて落ち込んでた時、香奈に会って、香奈と一緒にいて、すごく落ち着いたし癒された。真剣に好きだった」

「……でも、転職したこと、私に教えてくれてなかったじゃない。それって、私をないがしろにしてたってことじゃないの?」

「それは違うんだ。確かにすぐに言わなかったのは悪かったと思ってる。……俺、最初の食品メーカーに就職して四年経った頃から、別の道に進みたくて、ずっと転職を考えてたんだ。でも、その事が原因で前の彼女とギクシャクし始めたんだ」

「……何で?」



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