クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
社員用出口に立った私は、呆然とした。

バケツをひっくり返したような雨、という表現はまさにこのこと。おまけに、傘を持ってくるの忘れたし。

守衛室で借りようと思ったけど、私よりも先客がいて、すでに全部の傘が貸し出された後だった。

仕方ない。何とか近くのコンビニまで走って、傘を買おう。

そう意を決して、土砂降りの中へ飛び込もうとした、その時。


グイッと腕を引っ張られた。

「小野原課長……!」

驚いて振り向くと、もうとっくに帰ってると思っていた小野原課長の姿がそこにあった。

「その様子だと、傘を持ってない?」

「はい……」

「一緒に入って行きますか?」

思いがけない提案だった。

「でも、課長のご迷惑になるんじゃ……」

「迷惑だと思っていたら、声は掛けません」

……そりゃそうでしょうけど。優しいかと思えば、素っ気ない言い方するし、この人、どういう人なんだろう。

「行きますよ。ここでずっと立ってるわけにもいかない」

課長は傘を開くと、私の背中に手を回し、雨の中を進み始めた。

服越しに触れられた手から体温が伝わってきて、少しドキリとする。

バリバリッと、雨がまるで矢みたいに傘を突き破るんじゃないかと思うほど、激しく降り注ぐ。瞬時に靴もスカートもビショビショになる。

でも、私は背中に触れる課長の手の方に、いつの間にか全身の注意を持っていかれていた。


自分でも変だと思った。

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