クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
朝夕の空気が、徐々に秋めいた涼しさをまとい始めた9月中旬。
「お母さん、境内の掃除終わったよー」
私はキッチンに顔を出し、母に伝えた。
ここは、神社と同じ敷地内に建つ一軒の民家。
私、永沢 香奈(ながさわ かな)の実家だ。
「ごめんね、急に呼んで手伝ってもらっちゃって」
母は煮物が入った鍋の中をかき混ぜながら言った。
「仕方ないよ。お父さんが急に具合悪くなったんだから」
神主の父は、昨日、ぎっくり腰になって、二階の寝室で寝込んでいる。
「じゃあ、私、そろそろ帰るね」
「え、もう? 夕飯食べて行かないの?」
「……うん、明日も仕事で朝早いし」
本当は、久しぶりの母の手料理を食べたい。でも、私には、あまりここに長いしたくない理由があった。
隣の和室で着替えを済ませ、リビングに戻る。
「あれ、お姉ちゃん、もう帰るの?」
声を掛けてきたのは、さっきまで一緒に境内の掃除をしていた、四つ年下の妹の恵美(えみ)。
大学生の弟、潤(じゅん)も、戻ってきていて、ペットボトルのジュースを飲んでいた。
「うん、バス無くなっちゃうし」
「あ、もしかして、お見合い話から逃げようとしてる?」
「しっ! ……大きな声、出さないで。お母さんに聞こえちゃうから」
私もあと、三ヶ月で二十九歳になる。そのせいか、最近、母がしきりにお見合いをすすめてくるのだ。
「はぁ……三十歳までに結婚しないといけない家訓でもあるのかな、って言いたいよ」
「試しに会ってみたら? 意外と良い人かもよ」
恵美はサラッと言う。
「試しって……そんな“体験レッスン”みたいに言わないでよ」