クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
腕時計に視線を落とすと、針は六時五分を指していた。
会社からの最寄り駅の北側、ロータリー近くのベンチに、私は一人座る。
盛夏と比べて、秋の始まりを一番感じるのは、この時間帯かもしれない。微風が吹いてきて、、辺りは真夏よりもやや早足ぎみに、薄暗くなり始めていた。
人通りの多い南側と違って、駅の北側は特に目立った建物もなく、ロータリーとコンビニしかない。
南口を利用するのが会社への最短ルートなので、この北側には会社の人間はほとんど通らない。実際、私も初めて来た。
小野原課長はまだ来ていない。連絡先、聞いといた方が良かったかな……?
すると、その時、一台の黒い車が私の横で停まった。
「香奈」
名前を呼ばれ、振り向くと運転席側の窓から顔をのぞかせる課長の姿があった。
「乗って」
「あ、はい」
私は慌てて立ち上がり、助手席側に回って、乗り込む。
「悪い。待たせたかな」
「いいえ、私もさっき来たところです」
「だったら良かった」と少し微笑む課長に、ドキッとしてしまう。一見冷たい眼鏡の奥の瞳が、こんな風にフッと優しくなることを、どれだけの人が知ってるんだろうか。
「車で来ていらしたんですね」
「ああ、香奈を帰りに誘いたくて」
「えっ?」
「……って言うとカッコいいけど、実は昨晩、帰宅したら夜中回ってた。特に今回の出張は移動が多かったから疲れてて。今朝起きたら、遅刻しそうだったから、急いで車で来た」
「遅刻……?」
この『完璧王子』って言われてる人が?
朝起きて、慌てふためいてる姿を想像して、何だか可笑しくなった。
「別にそんなこと教えてくれなくてもいいのに……」
「何か言ったか?」
「いえ、何でも」
私が思ってるより、課長は実は親しみやすい人なのかも……。なんか、この普段から想像つかない差が可愛いな……。
可愛い、なんて言ったら、怒られそうだけど。
それに、さっきから名前で呼ばれてるけど、不思議と嫌な気もしない。