クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
「名前で呼んでくれていいけど」

「……いいえ……いきなりは……」

「まあ……今はそれで仕方ないな」

とりあえず、納得したようだ。

「それで、何か言いかけてた?」

「そうだ……あの、私のこと見てた、って言ってましたけど、どうしてですか? ほら、私って目立つタイプでもないし……部署も違うから接点もないし」

すると、しばらく間が空いて、小野原さんが口を開いた。

「……走る即戦力」

「え?」

「それが、俺の香奈への最初のイメージ」

「は……?」

なんじゃ、そりゃ。

「春から、業務部に中途採用で優秀な人材が入った、とは聞いていた。事務能力も高いし、製品の知識もあるので、早くも顧客から信頼されている、と」

「それって、私……?」

「ああ」
小野原さんはうなずく。

……ただ、ここで頑張らないともう後がない、って一心でやってきただけだけど。

確か、前にも笹倉さんが誉めてくれたことあったな……。前の職場では、そんなに役に立ってないと思ってたから、今、周りがそんな評価をしてくれていたんだ、と思うと素直に嬉しい。

「俺も実際に、難しい資料の提供を業務部に依頼したことがあったけど、思ってたより早く仕上がってて、丁寧にまとめられてた。その時に、永沢という女子社員が担当してくれていた、と分かったんだが」

小野原さんは窓の外に視線を向けた。

「だけど、それはどの企業でもよくあることだ」

会社側は、採用試験でなるべく使えそうな人材を選ぶから、と小野原さんは続ける。

「デスクワークだけじゃなくて、伝票や資料を持って社内を走り回ってたり、パソコン上と実際の在庫数が合わなくて、倉庫まで行って自分でリフト動かして調べてたり」

……何で知ってんの……。

「とにかく、細い体で元気で頑張ってる子だな、という印象だった」



< 37 / 167 >

この作品をシェア

pagetop