クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
私は、ギュッとブレーキをかけた。

……誰?……二十歳くらいかな……?

緩く巻いた栗色の髪。フワッとしたスカートが風に揺れている。

小野原さんは、その腕を振り払うこともなく、何を語りかけ、わずかに微笑んでいるようにも見える。


……何だ、彼女いるんじゃない……。


少し胸が苦しくなった。



私に付き合ってくれとか言っておいて……おまけに、キスまでしといて……。



やっぱりからかわれただけだったんだ。……そりゃ、そうよね。

そもそも最初から私なんかが、小野原さんに釣り合うわけなかったんだし。
ドキドキしてた自分が滑稽だ。


うっかり流されて、「はい、付き合います」とか返事しなくて、本当に良かった!

まだ小野原さんとは何も始まってないことが、せめてもの救いだ。

私は、自転車の向きを変えようと、ハンドルを傾けた。


「香奈じゃないか?」


その時、小野原さんの声が飛んできた。

……タイミングの悪い……。

ていうか、彼女の前で他の女の名前呼んだら、まずいんじゃないですか……!?修羅場には巻き込まれたくないんですけど……!

でも、無視するわけにはいかず、私は二人の方を見た。

「……こんにちは」

腹も立つけど、ここは大人の対応を心掛けなくては。

彼女はきれいな顔立ちをしていて、間違いなく美人の部類に入る。お似合いの美男美女。

すると、その彼女が私の方に向かって歩いてきた。そして、キッと鋭い視線で、私をにらんだ。

……怖っ……。


「どうも。恋人のアカネです」


トゲのある、キツい口調で自己紹介してきた。

……ほら、やっぱり……。







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