クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
胸の奥が少しずつ痛くなるのを感じる。

早くここから立ち去りたい。そう思っていると――



「こら、適当なことを言うんじゃない」

と、小野原さんがアカネという彼女に言って、私の方を見た。

「香奈。こいつは俺の妹だ」

「……妹……?」

「そう。朱色の “朱” に、“音” で、朱音(あかね)。十歳下で今、大学生」

「あ……そうなんですか……初めまして。永沢です」

何だ……妹さんか……。

あれ……? 何だろう、ちょっと、ホッとしてる……。

すると朱音さんが、声を上げた。

「ちょっと、お兄ちゃん!何で本当のこと言っちゃうの!? せっかく恋人のフリして、悪い虫追い払ってやろうと思ったのに!」

「朱音、彼女は大丈夫だ」

「この女、お兄ちゃんの何なの?」

「俺の大切な人」

「……」

朱音さんは半分口を開けて、絶句している。そして、その大きな瞳をさらに思いっきり見開いて私をじろじろ眺めると、正直な感想を口にした。

「嘘でしょ、こんな平凡そうな女が……!? お兄ちゃん、頭大丈夫!?」

「……」

……平凡で悪かったわね。まあ、否定はしないけど……。

「……朱音、それ以上言うと怒るぞ」

小野原さんの声が低くなり、やや厳しい表情で朱音さんを見る。

「……っ」

朱音さんは一瞬、眉を寄せて困った顔になったが、プイッとそっぽを向いてしまった。

小野原さんは、ハァ、とため息をつく。

「すまない、香奈」

「……いいえ、大丈夫です。こんな所でお会いするなんて思ってませんでした。……あの、昨日はありがとうございました」

「ああ。俺も楽しかったよ」

小野原さんの瞳が優しくなる。この人が笑顔を見せる度にドキドキする自分がいる。




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