クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
女性が、「ふざけないで」とか「バカにしないで」とか言っているのが聞こえる。

うわ、カップルの痴話喧嘩に遭遇しちゃったよ……。

でも、石段はそんなに広くなく、加えて急なので、ちゃんと下を見て下りないと危ない。そうすると、自然とその二人の姿が目に映ることになる。

仕方ない、静かに通り過ぎよう。カップルがどこかに行くのを待っていたら、バスの時間に乗り遅れる。ここら辺のバスは二十分に一本しか通らない。

女性は遠目でも分かるほど、美人だ。男性はこちらを背にしているので、顔は見えないけど、スラリとした均整の取れた体型だ。

あ、女の人はちょっと泣いてるみたい。気まずいな……。

でも、あんな風に、素直に感情を出せて、少し羨ましいと思う。

『ごめん、香奈。別れよう』

そう元彼から告げられたあの時、私も本当はそうしたかったはずなのに……。



サァッ……と目の前を木の葉の群れが舞い、視界がかすむ。





今年の一月。

大事な話がある、と彼――今となっては元カレだけど――に呼び出され、私は指示されたカフェで、ウキウキしながら待っていた。

彼、江田 彰斗(えだ あきと)とは、大学のサークルが一緒だった。


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