クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
その時、ガシッと腕を掴まれた。

「香奈!」

ハッとして我に返って顔を上げると、小野原さんの顔があった。

「大丈夫か?」

少し心配そうな表情を浮かべている。

「あ……ごめんなさい」

私はそこで初めて、自分がエントランスホールではなく、エレベーター前に立っていることに気が付いた。

自覚が無いまま、戻ってきてしまったらしい。

「あ……もうすぐ始まりますね。行きましょうか」

何でもないように取り繕ったけど、上手く笑えてるだろうか。



「……」

すると、小野原さんは映画館の方へは行かず、私の腕を掴んで無言のまま、ちょうど到着したエレベーターに乗り込んだ。

「あ、あの……?」

「ここを出るぞ」

「えっ……?でも、チケットが……」

私は小野原さんを見た。小野原さんの手が私の腕から離れる。

「そんな様子じゃ、何観ても楽しくないだろ」

「……」

……ああ、多分……。

今、私ひどく暗い顔してるんだ……。

せっかく小野原さんが誘ってくれたのに……さっきまですごく楽しかったのに……私が浮かない顔してるせいで、彼を不機嫌にさせてしまったんだ……。

……私ってホントにダメだな……。

一気に自己嫌悪に陥った私は、小野原さんの顔を見ることも、話し掛けることも出来なかった


駐車場の階で降りると、小野原さんの手が私の手を掴んだ。そのまま無言で、車のある方向へ進んでいく。

「乗って」

「……はい」

そのまま車は、駐車場を出た。

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