クール上司の甘すぎ捕獲宣言!


「顔、少し赤くなってるわよ。大丈夫?」

お店のトイレでばったり出くわした笹倉さんに言われて、私は慌てて鏡を見た。

……ホントだ、少し頬が赤い……。

「こんなに大勢で飲むのが久しぶりで、楽しくて、ついお酒が進んじゃったみたいです……」

「そっか。楽しんでるなら良かった。でも、もうすぐお開きだと思うから、もう酔いは覚ましとかないとね。こういう時、若い子は誘われやすいから」

「大丈夫ですよ。全然若くなんかないですから」

「何言ってんの。私から見たら、十分若いわよ」

「あ、すみません……」

「もう、謝んないでよ。余計ヘコむから」

と、談笑しながら二人でトイレを出ようとした時。

扉の向こうの通路から、誰かが話す声が聞こえてきた。

「お前、さっき永沢さん口説こうとしてただろ?」

……え……、私?

自分の名前が出たことに驚いて、ドアノブを掴んでいた手を離す。

「久保田のタイプだったっけ?」

隣接する男子トイレの扉の前で話しているのは、どうやら久保田さんと同僚の誰か、らしい。

案の定、久保田さんの声も聞こえてきた。

「特にタイプとかじゃないけど……何か前に比べると最近、話しやすくなったと思ってさ」

……タイプじゃない……でしょうね。

「だって、俺ももう三十路だろ?そろさろ真剣に相手探さないと、これから先一人かもしれないと思ったら焦ってきてさ。 合コン行っても、若い女の子に年上過ぎて重い、とか避けられそうだし、出会いの場って、もう職場しかねーじゃん」

「他の部署にもいるだろ?」

「営業事務は可愛い子多いけど、ほとんど誰かと付き合ってるか、小野原課長に惚れてるもんな。見込みねぇよ」

……ここで小野原さんの名前を聞くとは思わなかった…。

ていうか、こんな所で、そんな話する?

酔ってて判断が付いてないのか、店内が騒がしいので、誰にも聞かれる心配はないと思ってるのか。

「だから、とりあえず声かけたのか?」

「だって、彼女も三十前だし、絶対結婚とか意識してると思うし、真面目で男慣れしてなさそうだから案外、押したらおちるかもな、って……。まぁ、可もなく不可もなく、ってとこだな」

……可もなく不可もなく……つまり、普通、っていうことか……。

それに、簡単な女、と思われている。

自分に特別な価値があるとは、これまで思ったことないけど……そこまで言われると、やっぱり虚しい。

それに、私みたいな女はこの歳になると、『お手頃』な扱いになるのか……。


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