クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
……それにしても、出るタイミング失った……。

今の話を聞いて、「あ、お疲れさまでーす」と何気ない顔を作れるほどのメンタルを、私は持ってない。

通路の突き当たりに女子トイレ、その手前に男子トイレがあるから、どのみち、彼らの横を通らないと、自分の席に戻れない。

仕方ない、彼らが立ち去るのを待つしかないか……。

私は扉の前で立ち尽くした。

すると、

「じゃ、私、先に戻るね」

と、笹倉さんが出ていってしまった

あ……今の話、笹倉さんにも聞かれてたよね……。きっと私にどう言ったらいいか分からなくて、先に行っちゃったんだな……。


その時。



「ちょっと、どいて!邪魔!通路ふさぐんじゃないよ!」

今まで聞いたことのない、笹倉さんの鋭い声が響いてきた。

えっ?

私はそっと、扉を開けて、その数センチの隙間から、外の様子をうかがう。

その厳しい声に、久保田さんと同僚の男性も驚いた様で、さっと道を開いていた。

笹倉さんは、その真ん中を堂々と進むとふと立ち止まり、くるりときびすを返して彼らの方を向く。

「それから、久保田さん」

笹倉さんの鋭い視線と、いつもより低い声に、久保田さんは背筋を伸ばした。

「は、はいっ」

「人のこと、とやかく言う余裕があるなら、今日飲んでたピッチと同じくらいの早さで、月曜から仕事しな」

「……っ」

「いつまでも突っ立ってないで、行くよ」

笹倉さんの後に続くようにして、男性二人はその場からいなくなった。

あれが、お局パワー……。

いつも温厚な笹倉さんがあんな厳しい態度を取るなんて、思ってなかった……。見かけによらず、怒らせたら怖い人かも……。

でも、彼女が、私が出やすいように、わざとそうしてくれたことはすぐに分かった。

去っていく笹倉さんの背中が、少しカッコ良く見えた。


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