クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
しばらくして席に戻ると、もう皆、帰り支度をしていた。私のいない間に、お開きになっていたらしい。

外に出ると、「カラオケ行く人~」や「二次会行こー」などの声が飛び交っている。

「永沢さん、これからどうするんですか?」

森さんが尋ねてきた。

「カラオケ行こう、ってことになってるんですけど、行きません?笹倉さんはさすがに帰るみたいですけど」

……そうだよね、旦那さんと子供さん、待ってるもんね。

カラオケに行く集団の中に、久保田さんの姿が見えた。あの会話を聞いた直後に、一緒の空間で楽しめる自信はない。

「ごめんなさい、私、用事があるから、帰ります」

「えー、そうなんですかぁ?」

「また今度、必ず」

「じゃ、約束ですよ~」



そうして、各自解散となった。

私は一人駅へ向かう。頭が少しボーッとする。帰りにちゃんと、お店でお水もらえば良かった……。しっかり気を持って、電車に乗り込んだ。



小野原さんも……私を簡単な女だと思ってるのかな……?

男慣れしてない、お手頃な女、と……。




酔いのせいか、感情が不安定になる。

……はぁ……今は何も考えたくない。早く帰って、寝たい。

電車の揺れで、つい、うとうとしていたけど、最寄り駅到着のアナウンスが耳に入り、何とか寝過ごさなくて済んだ。

「……寒っ……」

改札を抜けると、急に風が吹き付けてきた。秋の訪れが深まるにつれ、夜風もここ最近、グッと冷たさを増している。

私は足を前に踏み出して、自分の様子がおかしいことに気付いた。

地面が揺れてる……視界も少し、回ってるような……。

そんなに飲んだ覚えはないけど、連日残業で疲れてたせいで、今頃、酔いが回ってきたかもしれない……。

寒いし、頭痛いし、気持ち悪い……。早く帰らなきゃ。

ところが、数歩進んだところで、足元がふらついた。

あ、体がよろめきそう――

なんて、どこか他人事みたいに感じていた時。

誰かに肩を抱き止められた。

「あ、すみません……」

顔を上げようとしたけど、体がいうことを聞かない。

私を抱き止めた誰かも、私から腕を離そうとしない。

普段なら、「変質者!?」と、叫んでしまいそうな状況なのに――

……何か、この腕……温かい……

眠く……なりそう……




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