クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
そして席に着くと、いきなり、私に頭を下げた。

「ごめん、香奈。……別れてほしい」

「え……?」

のんきにメニュー表を眺めていた私は、その意味が分からず、聞き返した。

「どうしたの……?」

「ごめん、別れてくれ」

二度目は、ハッキリ言われた。

「な、何で……」
と、口に出すのが精一杯だった。

「このまま、一緒にいてもただ時間が過ぎるだけで、お互い何も得られないと思うんだ」

何、その曖昧な表現……。もっと分かる言葉で言ってよ……。

「……私のことが嫌いになったの?」

「嫌いというかじゃないんだ……香奈は良い性格だと思うよ。ワガママとか言わないし」

……そうよ。私、彰斗が私といて楽しいと思えるように、この恋を大切にしてきたつもりだよ……?

「……でも、俺達、もう二十八だ。将来のことを真剣に考えるべきだと思う」

それって、つまり……。

「ダラダラ付き合って、時間を無駄にすることはないと思う。本当は、もっと前から言おうと思ってたんだ。……お前との結婚は、無い」

ケッコンハ、ナイ……

その言葉は重い鉄の塊となって、私の脳天に勢いよく落ちてきた。

もっと前から、って、いつ頃から?
私が笑ってる横で、それをいつ切り出そうか、考えてたの……?

男性と長く続いたためしがなかった私にとって、一年という長さは永遠に等しかった。

今回こそ、この恋を終わらせない。そう思いながら、自分の言動にも注意を払ってきた。別れの前兆が少しでもあれば、さすがの私も気付いたと思う。でも、そんな素振りは少しも感じなかった。

明るい未来を描いていたのは私だけだった……。なんて、バカなんだろう……。

彼の中では、とっくに終わっていたのに。


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