クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
とりあえず、この格好を何とかしなきゃ……!

慌てて、自分の服を探す。ブラウスとスカートとストッキングは、床に落ちていた。

急いで拾い上げ、身に付けると、部屋のドアをそっと開ける。

そこは廊下だった。右手に玄関ホール。左手には、おそらく、リビングに続くであろう扉。

マンションの造りだ。

……ここ、知ってる気がする……。

マンションの内装なんて、どこも似たり寄ったりだから、ただそう錯覚しただけなのかもしれない。

でも、どうしても確かめたくて、リビングの扉を開けた。

広々とした開放的な空間が広がっている。

私は、ゆっくりとリビングに足を踏み入れた。

白とグレーを基調とした家具。あのソファーは、きっと体が沈んでしまいそうなほど柔らかいはず……。

……以前、ここに来たことがある。





「……ここ、小野原さんの家……」





「そうだ」

「!」

急に後ろから声がして、心臓が飛び出そうになった。

振り返ると、そこには眼鏡を掛けた小野原さんが立っている。

「体調はどう?」

「……はい、大丈夫です……それより」

私は意を決して、尋ねた。

「あの、私、昨日……どうなって……」

「覚えてない?」

「はい……」

「……昨日の香奈は可愛かったな……」

思い出すように、小野原さんは呟いた。

「!!」

何これっ! 正夢……!?




改めて確認。

酔って、記憶が無い。

目が覚めたら、男の部屋。

そして、服を着てなかった。



……ヒィッ……その要素がちゃんと揃ってる!!

私は、その場にガックリと膝をついた。

全然覚えてない……。最悪……。

「ご、ごめんなさい……」

私、ちゃんとしてたかな……? 変じゃなかったかな……?

って、何の心配してるの!? ちゃんと、って、何!?

そもそも、その行為自体が、変なんだから、何をもって変だと……いやいや、今それ別に重要じゃないから!

とにかく、頭の中はパニック状態。

「香奈」

なので、小野原さんが私を呼んだのは分かっていたけど、それどころではなかった。

多分、小さくなりながら、どうしようどうしよう、と念仏のように、唱えていたに違いない。

「香奈」

小野原さんは、私と目線を合わせるようにしゃがみ込むと、再び名前を呼んだ。

私は見られるのが恥ずかしくて、うつむくと両手で顔を覆った。


< 80 / 167 >

この作品をシェア

pagetop