クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
「俺の一晩の努力を無駄にした香奈が悪い。あまりにも無防備すぎる」

えっ!?……何、何?

「今、ここには俺と香奈しかいない」

そうだ、この前は朱音さんがいた。でも、今は……小野原さんと二人きり。

私はさっきの発言の真意を理解した。

つまり……起きて意識のある私には何かしちゃう、ってこと!?

「あ、あのっ……」

「香奈」

「は、はいっ!」

「キスしたい」

「えっ!?」

瞳の奥をのぞき込むように真っ直ぐ見つめられ、胸の鼓動が激しくなる。

「……そんなに見ないで下さい……」

昨日そのまま寝ちゃったから、メイクも取れかかってて、肌がボロボロになってるはず……!

「でも香奈が嫌なら、しないから」

「……」

……ずるい……。

そんな目で見られて……断れるわけがない。

この前の、キスの感触がよみがえる。

あの時みたいに……何も言わずに強引にしてくれたらいいのに。


私に、判断をゆだねないで……。



小野原さんが、そっと眼鏡を外した。

……その何気ない仕草にさえ、男の人の色気を感じてしまう私の頭は、きっと……どうかしてる。

「……キス……だけなら……」

目をそらせない私は、代わりにぎゅっと目を閉じた。

そう、これは一晩泊めてくれたから、彼の要求を聞き入れているだけよ……そうよ、それだけのこと……。

と、自分に言い訳しながら。

まぶたの向こうで小野原さんが微笑んだ気がした。

唇に、柔らかい感触が落ちてくる。

優しく、舌を絡められ、吸われる。

「んっ……」

以前は何も考えられなくなるくらい、激しい感じのキスだったけど……こんな風に、何か優しく食べられてるみたいなのも……気持ちいいな……。

そう思っていると、小野原さんは今度は私の首筋に唇を移動した。

チュッと軽く吸われ、全身がぞくりとする。

「ひゃっ……!」

突然の感覚に、思わず変な声が漏れた。

「えっ、ちょっと、小野原さん……!?」

「何?」

「何って……キスだけじゃなかったんですか……?」

「これもキスだけど?」

「ええっ!」

小野原さんはクスッと笑った。そこでしゃべらないで! くすぐったいから!

「大丈夫、跡は付けないから」

「そういう問題じゃ……ないです……っ」

「もう少しだけ、香奈を感じていたい」

「……そんな……」

ダメだと分かってるのに、体に力が入らず抵抗できない。

それは……私自身、どこかで『この先』を期待してしまっているから……。

でも、その一方で私の理性が警鐘を鳴らす。小野原さんとは付き合ってないし、今はまだ会社の上司だ。

このまま流されてしまいたい感情と、歯止めをかける理性とが、私の中でない交ぜになり、思考が混乱する。


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