クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
電車に揺られること、約五十分。
それからバスに乗り換え、見慣れない町に。
数分、閑静な住宅街を歩き、一軒の家に到着した。
表には『谷山』の表札。
腕時計で時間を確認する。午後4時過ぎ。
母が指定した時刻だ。
先日届いた母からの荷物の中に、お見舞い品以外の物は入っていなかった。母に私の思いは通じたのか、お見合い写真らしきものが入っていなかったことに、とりあえずホッとする。
谷山家の人達と最後に会って十数年は経っている。すぐに私だと認識してもらえるかな……。少し緊張しながら、私はインターホンを鳴らした。
「はーい」との声と共に、一人の中年女性が出てくる。
「まあ、香奈ちゃん!いらっしゃい!」
ニコニコ顔で出迎えてくれたのは、谷山家の奥さんだ。
相変わらずおばさんの人懐こそうな笑顔に、緊張の糸がほどける。
「お久しぶりです」
私も頭を下げた。
「さあ、どうぞ、入って」
「お邪魔します」
案内されたのは、八畳ほどの和室だった。
「やあ、香奈ちゃん、久しぶりだね」
そこに座っていたのは白髪混じりの男性だった。
「ご無沙汰しております」
「香奈ちゃん、キレイになったね。会わなくなって、ずいぶん経つね。そりゃ、おじさんも年取るわけだ」
谷山のおじさんは、そう言って笑う。顔のしわは少し深くなったけど、笑顔は昔のままだ。
「あの、これ、ほんの心ばかりですが……」
私は母から預かったお見舞い品を紙袋から出して、正面を向けて渡した。。包装紙でくるまれているので、中身が何かは分からないけど、そんなに重くなかったし、おそらく和菓子だと思う。
「ありがとう。気を遣ってもらって悪いね」
「いいえ、それより、お体のお具合はいかがですか?」
「ああ、風邪をこじらせてね、肺炎になりかけてたんだけど、もうだいぶ良くなったよ」
「そうだったんですか……でも、お顔の色が良いので、安心しました」
「わざわざ来てもらってありがとうね。ここまで遠かったろう?智之に香奈ちゃんを迎えに行かせようと思ったんだが、急に仕事が入ってしまってね」
「いいえ、そんなお気遣いなく」
「もうすぐ智之も帰ってくると思うから。あの子、香奈ちゃんが来るの楽しみにしてたのよ」
ニコニコ笑顔でおばさんが、言う。
しばらくして、玄関から、「ただいま」と、若い男性の声が聞こえてきた。