クール上司の甘すぎ捕獲宣言!
悲しかった。悲しすぎて、言葉も出ない。
私とは結婚したくない、イコール、私の人格も否定されたように感じた。

その時、もう会うのが最後なら、思ってる感情をぶつけて、彰斗の肩を揺さぶって、泣いてわめけば良かったかもしれない。

……でも、出来なかった。

そんなことをして、彼の気持ちが戻ってくるわけじゃない。そんなことをしても、自分がみじめになるだけだ。

こんな時だけ、変なプライドが私の心を支配する。

「……そう……分かった」


その声は、震えていたと思う。私はうつむいたまま、顔を上げる動きさえ出来なくなった。

「……ごめん。じゃあ、これで」

彰斗の声だけが耳に残り、彼はそのまま店を出ていった。

それから、どのくらいそこにいたか分からない。どうやって、自宅マンションへ戻ったのかもさえ。

翌日は、日曜日だったので、助かった。泣き腫らした目で出勤して、周囲から憶測されるのも嫌だったから。


だけど、悪いことは重なるものだ。

月曜日、いつも通り出社すると、社内の空気が張り詰めているのが分かった。

以前から全社員の給料やボーナスが減る一方で、前から業績が良くないのは知っていたが、いよいよらしい。

まず、真っ先に私のような事務職の女子達が、切られる対象になるだろう。

実家に戻って親のすねをかじる生活なんてしたくないし、親に迷惑を掛けたくない、と思って、私はすぐに次の就職先を探し始めた。

忙しくすることで、失恋の痛みも忘れられるし、私には良いタイミングだったかもしれない。

そして、その三か月後、たまたま求人が出ていた、とある企業の中途採用試験に運良く受かり、元の会社を辞めて、その会社に再就職した。


季節は春になっていた。心機一転、再出発!

そう思っていたのに。

まさか、そこで彰斗と再会するなんて、夢にも思ってなかった。

……神様って、どれだけ意地悪なの。


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